過酷な環境で頑張る計測機器たち
- 2024/12/18 更新
今回のトピックスは、先日オーバーホールで入ってきた計測機器についてお話します。
基板や電子回路が内蔵されたいわゆる”精密機器”は、繊細で取り扱いへの注意や使用環境にも配慮が必要な、とてもデリケートなものです。 しかし時には人間の都合により、過酷な環境の中で役立ってもらわなければならないことも多々あります。 今回弊社にオーバーホールを依頼されたお客様の使用環境は、電子機器どころか金属の天敵ともいえる「塩分を含んだ水」に晒されるような現場でした。
電子機器やそれに使われる金属に対して、水分はさまざまな悪影響を及ぼします。
水は導電性を持つため、電子回路に水分が侵入するとショートや短絡を引き起こす可能性があります。 特に、プリント基板や接続端子に水分が付着すると、信号の伝達が妨げられることがあります。 プリント基板がなぜ水に弱いかというと、水分に含まれる不純物や基板上のゴミや埃が電流の漏れを引き起こし、 最終的にICの動作に不具合を生じさせ基板が壊れる原因となっているからです。 また、水分は金属の腐食を引き起こす主要な要因となり、特に鉄や鋼などの金属は、水分と酸素と反応して酸化鉄(さび)を形成します。 腐食が進行すると、金属の強度が低下し、構造的な損傷を引き起こす可能性もあります。
電子機器や金属にとって水分はこれだけのマイナスの影響を及ぼしますが、ここに塩分が加わることでその影響はさらに大きなものとなります。 塩分(特に塩化ナトリウム)は水分と結びつくことで電気化学的な腐食を促進しますが、塩分は導電性を持つために金属表面での電流の流れを助長して腐食を加速させます。 特に海洋環境や湿気の多い地域では、塩分の影響が顕著になります。 塩分が金属部品に付着すると、塩害が発生することがありますが、これは塩分が水分と反応して腐食を引き起こし金属の劣化を促進するためで、 結果として電子機器の寿命が短くなることがあります。 塩分も水分と同様に、絶縁材料の絶縁性を低下させることがあるため、電子部品の故障や性能劣化の原因となります。
このような環境下で使用される計測機器は、その対策として防水・防塩処理が施されていることがほとんどです。今回お預かりした計測機器にもそういった防水・防塩処理としてコーティングやシーリング剤が使用されておりました。
オーバーホールの際には、外観チェックとともに汚れや付着物の除去とクリーニングを行ない、手順に従って分解作業を進めていきます。 この時、水分・塩分対策としてシーリング用のガスケットを固着させているシリコンを除去するのですが、この素材はシーリング材としての優れた特性を発揮する反面、 その除去にはパーツクリーナーなどを使用した根気強い作業が求められました。 古いシリコンが残留してしまうと、新品のガスケットに交換して取り付けた際に隙間や固定力の低下につながる恐れがあるため、妥協せずに作業を進めます。 外部から筐体内部へと配線を通すケーブルグランドは、粘土状の物質が穴を塞ぐように付着しており、絶対に異物の侵入を阻止するという強い意志を感じました。 汚れの度合いに応じて金属部分はシンナーに付け置きするなどして、可能な限り使用前のキレイな状態に戻してやります。 筐体内部のゴミや埃はエアコンプレッサーにてエアブローし、少しでも電子回路へのリスクを取り除きます。
清掃がひと通り完了したら、交換後の新品ガスケットやパーツの合わせ目へシリコンとコンパウンドを塗布し、水分・塩分への対処をいたします。 また、鋼材への防錆材の塗布を施し、筐体表面のキズには専用塗料でタッチアップすることで、錆の発生を防ぎます。 部品交換と再組立てされた計測機器は、通電後の動作チェックを経てオーバーホールの完了となりました。
今回ご紹介したオーバーホール内容は、とりわけ過酷な環境で使われた計測機器のものでしたが、現場で酷使される計測機器だからこそ 定期的な点検やメンテナンスを行うことで、早期に腐食や劣化を発見し、対処することが可能です。 水や塩分の影響を理解し、適切な対策を講じることが、電子部品や金属の長寿命化に繋がります。
1978年の創業より電子機器、計測機器、精密機器などの校正・修理・点検・検査業務に従事してきた株式会社コンテックでは蓄積してきた豊富な知識と経験を活かし、オーバーホールをはじめとする点検・検査業務を承ります。お客様の製品の信頼性をより確かなものにするサポートは株式会社コンテックへお任せください。お問合せをお待ちしております。